静かな夜にワインとビスマルクを

静かな夜に黙々と考えたことを綴ります。政治とかアフリカとか趣味とか…。

石油の世紀はつづく

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米国上院エネルギー天然資源委員会のマウカウスキ議員(共和)は7日エネルギー輸出に関する報告書を提出し、その中で氏は原油輸出を禁じている現在の政策は非効率で原油供給の妨げになりかねないと指摘し、オバマ政権のエネルギー政策に見直しを求めたと日経新聞は報じた。

 

現在、米国の原油生産量はシェールオイルの増産により2013年には750万バレルと24年ぶりの高水準に達した。このペースが維持されれば米国エネルギー情報局の予測によれば2019年に961万バレルに達しサウジアラビアを抜き世界最高の生産量を記録するとされる。

 

こうした中で米国内の消費は経済成長の鈍化や自動車の燃費向上などのあおりを受けて頭打ちの状態が続いている。筆者が昨年末、ニューヨークで活動するエコノミストのフォーキャストを聞いてきたところ2014年の米国経済は好転し、拡大局面に転じるという見方があったものの情勢は不透明だ。

 

今後米国の原油政策が転換され原油が輸出されるかどうかは原油価格と中東情勢に大きな影響を与えることになる。2014年の国際情勢を占う意味でも非常に重要な意味を持つと考えるので予測してゆくこととしたい。

 

米国の原油輸出政策は、

 

(1)輸出解禁

(2)輸出解禁せず

 

という選択肢がある。

 

世界のパワーバランスに影響があるのは明らかに(1)である。

 

どの程度の解禁をするかにもよるが、解禁すれば既存の中東産油国にも影響が出る。現在、石油輸出国機構(以下OPEC)の生産余力は極めて低く米国の原油輸出が実現すれば中東産油国に恩を売ることができる。産油国にとっては自国の資源を温存することができるわけだ。

 

さらに、米国の原油生産量は2015年サウジアラビアを抜き世界一位になるという予測が出ており、今後中長期で大量の米国産原油が世界のマーケットに流れ出ることになる。

 

そうなれば現在OPECで行われているような生産量の調整が米国とOPEC間で行われることになろう。米国がOPECに加盟するかも知れないし、OPEC+米国という新しいエネルギー安全保障の枠組みが模索されるのは時間の問題だ。(OPECはその成り立ちが石油消費国への牽制、特にイスラエルを支援するアメリカへの牽制だったことを考えれば新しい枠組みの方が現実的と筆者は見ている)

 

現在、米国が産油国になることで中東への関与が弱まるという意見が日本では強いが筆者は異なる見解を持っている。

 

中東への関与が弱まるとする人たちは主に2つを理由に上げている。

 

1つめは産油国になれば自国原油で消費を賄うことができるようになるため中東からの原油輸入を減らせる。そのため、中東への関与を減らすとする説である。

 

2つめは財政の問題である。財政悪化のためそのしわ寄せが米軍にもおよび、世界的に米軍の規模を縮小していくとする説である。特にその中で1つめの理由とリンクして原油調達の必要性が低くなる中東地域は有力な候補だというわけだ。

 

まず1であるが、事実は逆であると思う。マーケットメカニズムを考えれば原油生産者は高値で原油が取引される状況が最も好ましいはずであり、値崩れを起こすような供給のまずしない。あれだけ多彩な顔ぶれのOPECも生産調整の努力をしている。米国が産油国として世界にその原油を流すようになれば中東との生産調整がおのずと必要となってくる。中東はパートナーであり、交渉相手にもなってくる。

 

そうした時、交渉相手に対して交渉カードは多い方がよい。むしろ関与を深めていくのではないかと思う。

 

2つめについてはアメリカのエコノミストの間ではすでに財政健全化への道筋は一服したとの見方が主流であり、これ以上の削減はないとみている。しかし、依然財政状況が厳しい米国は世界の警察としての力を維持したいというジレンマと闘うことになる。こういう状況で考えられるのは同盟国への「責任分担」だろう。

 

先日、2013年までホワイトハウスで大統領特別顧問を務め、現在コロンビア大学公共政策大学院教授でグローバル・エナジー・ポリシー・センター所長も務めるジェイソン・ボードフ氏の話を聞いてきたが、氏の見解も同じようなものだった。

 

米国は世界の同盟国に対し、負担の枠組みの変更を求めてくるだろう。

 

アメリカにとって日本の安倍政権の誕生はこのような戦略変更のはざまで誕生した実に都合のよい政権とも言える。

 

筆者は安倍政権の究極的な目標は9条改憲による憲法改憲であると思っている。つまり本質的には第一次内閣の時と全く変わっていない。

 

こうした世界の文脈変更の中で安倍政権が誕生したことは実に興味深いことだと思っている。

 

資源を持つ者と持たざる者の狭間で世界が激流に飲みこまれてゆく中、日本は持たざる者として鮮明な国家戦略が必要になってくるのは論を待たない。ハードパワーとソフトパワーを縦横に組み合わせて双方の中で独自のポジションをとれるよう、外交に問題意識を持ちたまには外を見てみる覚悟と勇気が国民に求められていると感じた年頭であった。