低迷する原油価格は混乱の予兆。
原油価格が低迷している。
この記事を執筆時点でWTIの価格は60.33ドル。2015年に入ってから5月までのWTI月間平均油値は、
1月47.60ドル
2月50.72ドル
3月47.78ドル
4月54.20ドル
5月59.26ドル
と推移し60ドルを連続して下回っている。筆者がオイルマンだったという当時は100ドルという数字が軒並み並びこんな低油価な状況は想像だにできなかった。
今回の油価の下落はおおむね2つの見方がある。
ひとつはワシントンで強く流れているという、アメリカとサウジアラビアが手を組み、ロシアとイランの弱体化を狙っているという説。
もうひとつは、ハドソン研究所の経済学者、アーウィン・ステルツァー博士らが主張しているサウジアラビアによる米国シェール産業つぶしとする説だ。
現在のオイルマーケットはサプライショックが起こっている状況でファンダメンタルとしては原油あまりの状況だ。昨年11月27日にウィーンで開かれたOPEC総会ではシェールオイル・ガスの増産が続く状況に関わらず、産油国12カ国は生産量維持を決定。産油国12カ国で合わせて日量3000万バレル。
一方で米国はシェールの恩恵によってこれまで中東から輸入していた日量400万バレルの原油が不要になり、この玉突き原油が世界の原油あまりのひとつの要因となっている。
確かに原油あまりの状況が現在の低油価を主導しているという見方もできるだろう。しかし、ことはそう容易なものではない気がしている。
筆者のオイルマン時代もそうだったのだが日本のオイルマンはあまり国際政治のダイナミズムと原油を連動させて考える習慣があまりない気がする。
今回の低油価は原油あまりというファンダメンタルと先述の説の複合要因だと思う。シェールオイルをつぶしたいサウジアラビアの思惑と、ロシアとイランの弱体化を狙ったアメリカの思惑が一致したというのが本当のところだろう。
さらにいえば現在のオバマ政権は石油業界を敵視しており自然エネルギーを推進してきたことも遠因として考えられる。自然エネルギー推進のために石油業界の弱体化を狙った米国内での”内紛”もひとつの理由だ。
いずれにしても現在の低油値で恩恵を受けるパワープレーヤーが多い現在の状況はしばらく続くだろう。
この低油価でロシア、特にプーチン政権の存立基盤が弱体化してくればロシア国内での政治バランスに大きな変化が生まれることは間違いない。
さらに現在も勢力を伸張しつつあるIS(イスラム国)も原油を収益の柱としており彼らを刺激する可能性も十分にある。
原油の値段という表面にとらわれず、国際情勢を分析することこそ原油価格を占う近道だと思うのは筆者だけではないだろう。